詭弁、誤謬一覧
詭弁、誤謬一覧
【注意】
・以下は、wikipediaの記事「詭弁」を参考に平易に言い換え、分類したうえで例文と考えられる反論を加筆したものである。例文作成にあたり本文書作成者による誤解などで不適切な例文が生まれた可能性があるため注意。学術的な正確性や網羅性を期したものではなく、砕けた表現についても目を瞑っていただけたら幸いである。尚、一部の項目では発言者に差別主義者や陰謀論者を想定したため例文に差別的な表現が含まれている。また、例文やその反対は必ずしも記事作者の意見を表すものではない。
・譲渡、転載、改変などは制限しないが上記の点に留意し、あくまで参考にとどめること。あくまで、あくまで参考にとどめること。網羅性や正確性を求めることも考えたが、生地作成者は論理学者ではなく、またそのためにはアリストテレスから現代に至るまでの論理学の成果を踏まえる必要があるだろう(本記事の自然主義的誤謬やカテゴリーミステイクといった概念は現代論理学を踏まえたものではある)。そこで、正確さや網羅性については目に瞑り、さしあたり触れることの多いウィキペディアの記事の解題にとどめた。屋上架屋の憾もあるがご容赦いただきたい。
【概論】
・誤謬とは、命題の証明になってない論理展開のことである。説得を目的とした場合は詭弁と呼ばれる。ただし、自己欺瞞のために(自分を説得するために)詭弁を弄することもあり、それを自覚していない場合も多いため、ここでは論理的に破綻した命題一般を扱う。
・暫定的ではあるが、本論の見る限り(wiki記載の)詭弁や誤謬は三段論法上のもの、集合論的なもの、自然言語の曖昧さによるもの、証拠の不在を利用したもの、話術を弄したもの、カテゴリーミステイクによるものに大別できる。ただし、重複や併用は往々にして行われ、以下の例文も複数分野に横断していることがある。
・各分野について以下のような対策が考えられる。
・(三段論法)三段論法になってないんじゃないか
・(集合論)過度な一般化や一般論の無理な適用がされていないか。例外は考えられないか
・(自然言語)同じ意味で使っていないんじゃないか、曖昧さを利用していないか
・(証拠の不在)反対のことも言えるんじゃないか
・(話術)話題がズレていないか、非論理的な場外乱闘に巻き込まれていないか
・(カテゴリーミステイク)それは根拠にならないんじゃないか、論理と別の領域を横断していないか
【各論】
〈三段論法上の誤り〉
- 「AだからB(A→B)」から「AじゃないならBではない(notA→notB)」は言えない
(例)「自分がされて嫌なことは人にしてはならないが、自分はされて嫌じゃないのでしていい」
(回答)”猫はフンをするけど自分は猫じゃないからフンをしない”みたいな話になってる
-
「AだからB」から「BだからA」は言えない
(例)「移民は罪を犯しがちだから容疑者は在日外国人である可能性が高い」
(回答)話があべこべになってる(変な前提も入ってる)
-
共通項を介し違うものを同一視してる(A→BとC→BからA=Cを導いている)
(例)「鯨は哺乳類で人は哺乳類だから鯨は哺乳類」
(回答)リベラルでない反原発、リベラルでありかつ原発推進は矛盾しない (レッテル張り、リベラルの定義の曖昧さも利用されている(自然言語の曖昧さによる誤謬も参照))。同一の共通項は両者の同一性を意味しない。
〈部分全体関係の誤り〉
- 個別事例はそのままじゃ一般化できない(過度な一般化)
(例)「隣に住んでる黒人は粗暴だから黒人は粗暴」
(回答)一般化しすぎ
- 部分に言えることが全体に言えるとは限らない(過度な一般化)
(例)「暴力的なゲームが好きだからあいつは暴力的なことが好き」
(回答)一般化しすぎ
- 全体に言えることが部分に言えるとは限らない
(例)「中国は富裕国だからあの中国人は富裕」
(回答)一般論に過ぎない。全員そうとは言えない
- AかnotAかのいずれかとは限らない(物事を二分できるとは限らない)
(例)「人は馬鹿なやつか賢い奴しかいない。あいつは賢くないから馬鹿だ」
回答)一対象のある面では当てはまるが別の面では妥当しない要素もある
〈自然言語の曖昧さによる誤り〉
- 同じ言葉が同じ意味を指すとは限らない(定義があいまい)
(例)「彼は(学力の面で)賢く、(頭の回転が速いと言う意味で)賢い人は話がうまいので彼は話がうまい」
(回答)その言葉はどういう意味で使ってるのか?
- 少数について言えることが多数について言えるとは限らない(砂山のパラドックス)
(例)「さっきまでデモの参加者は少人数だったので多少増えても少数派」
(回答)誤差かどうかわからない。何人でも少数派になる
〈恣意的な前提や議論の循環による誤り〉
- 変な前提が隠れてる
(例)「犯罪者は更生できる。大事なのは更生させる方法」(更生させる方法が本当に犯罪者を更生させられるかはわからない)
「否定するなら対案を出せ」(否定する時対案を出さなきゃいけない訳じゃない)
(回答)ケースバイケース(隠れてる前提を見つける必要があるので難しい)
- 議論すべきものを前提としている(論点先取)
(例)「日本人は勤勉だから製品が高品質」
(回答)そんなこと言えなくない?(仮に勤勉→製品の品質が高いと言えたとしても日本人→勤勉の論証が必要)
- 議論が循環している。前提が根拠となり根拠が前提となっている(論点先取の派生)
(例)「同性愛者は異常だ。なぜなら普通じゃないからだ」(普通じゃないから異常だ)
「聖典は神の言葉だ。なぜなら神の言葉だと聖典に書いてあるからだ」
(回答)話が循環している
〈証拠のなさを利用した詭弁〉
- 証拠がないことは事実でないことを意味しない
(例)「ワクチンの効果が証明できないからワクチンは効果がない」
(回答)効果がない証拠もない
- 未解明な部分を勝手に補ってはいけない
(例)「コロナの流行は原因が不明な部分が多く不自然なほど急速に拡大したから、誰か流行らせようとしたり真相を隠そうとしている奴がいる
に違いない」
(回答)その証拠もない。未解明な領域やそれへの推測は根拠にならない
〈話術による詭弁〉
- 論点がズレてる
(例)「左翼/右翼は与党/野党の脱税の追及はするのに野党/与党の脱税は問題にしないんですね」
(回答)今は与党/野党の脱税の話であって反対の話題の時間じゃない
- 都合のいい論敵をでっちあげてる(藁人形論法)
(例)「彼らは表現の自由を擁護すると同時に性表現を規制してる」
「彼はポルノを根絶やしにしろと言った(言ってない)」
(回答)そんなこと言ってる人本当にいるの? 同じ人が本当に言った? 全員そう言ってるの? 同時に言った?(文脈が違わないか、変説していないか)
- 言ってる人が間違ってても言ってることが間違ってるとは限らない(人格攻撃)
(例)「A法改正を訴える議員が犯罪を犯したのでA法は改正すべきではない」
(回答)誰が言ってるかと何を言ってるかは別
- 印象操作(※本来印象操作は「恣意的な表現」という意味ではない)
(例)「成熟した判断があれば~とわかる」(同じ結論に至らない奴は子供)
「A法に反対するのはA法で取り締まられて困る犯罪者(予備軍)しかいない」
(回答)子供っぽさは印象論に過ぎない。論理的に問題点を挙げることと摘発される要素を持っていることを無理やり繋げて反対者=犯罪者を演出している
- 多数派に見せてる
(例)「世間、世論がそれを許さない」
(回答)世間が許さないとかってお前が許さないだけじゃないのか
- 質問が肯定しても否定しても不利になるよう誘導している
(例)「万引きはやめたの?」
(はいと言ってもいいえと言っても以前万引きしていたことを肯定してしまう)
「このままでいいと思ってるの?」(一般にこのままでいいかどうかと議論対象がいいかわるいかは別)
(回答)質問に悪意がある
〈カテゴリーミステイク(事実と理想など別の領域を結び付けること)による誤り〉
- そうであること(is)はそうであるべき(ought)理由にはならない(いわゆる自然主義的誤謬(なお、厳密にはヒュームの法則と言うべきであり、ムーアの自然主義的誤謬の用法はこうしたis-ought problemというよりは定義論に関わるものである。ただ、詭弁を語る文脈ではこれをヒュームの法則と同一視し用いることがしばしばあり(特に生命科学)、ここではこの用語を採用した))
(例)「女性は妊娠して一度退社するので女性を終身雇用すべきではない」
(回答)事実はそうしていい理由にはならない(事実で理想は正当化できない)
- 道徳的に正しいことが論理的に正しいとは限らない
(例)「人間は平等であるべきだから人間の能力は平等」
(回答)理想は事実を意味しない。事実と理想が競合することはあり、課題として立ちはだかることは往々にしてある
(「理由にならない」系のカテゴリーミステイク)
- 感情は根拠にならない。感情論になってる
(例)「じゃあ被害者の前でも同じこと言えるんですか」
(回答)被害者の感情を利用している
- 同情は根拠にならない(感情論の一種)
(例)「動物が可愛そうだから肉食文化は悪」
(回答)感情論を話す場じゃない
- 伝統は根拠にならない
(例)「夫婦同姓は日本の文化だから変えてはならない」
(回答)伝統が正しいとは限らない(切腹、纏足、残虐刑など評価の分かれる伝統も擁護してしまう)
- 新しさは根拠にならない
(例)「最新の研究がこう言っているから正しい」「封建的で遅れている」
(回答)新しいから正しいとは限らない(“印象操作”も利用)
- 権威は根拠にならない
(例)「独裁が最善。プラトンも民主主義を否定した」(古事記にも書いてある系)
(回答)誰が言ったかと何を言ったかは別
【参考資料】
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A9%AD%E5%BC%81
崎昭弘 『詭弁論理学』中央公論新社(1976年)※本文作成者未読
アリストテレス『アリストテレス全集〈3〉 トポス論 ソフィスト的論駁について』 納富信留訳、岩波書店(2014年)※本文作成者未読